抜粋ラーマクリシュナの福音

(B6版、432頁)

定価(本体1550円+税)


改版第一刷の刊行にあたって 

 これは、一九七八年七月にマドラスのシュリ・ラーマクリシュナ・マート出版部から出た、「The Condensed Gospel of Sri Ramakrishna」(第七版)の全訳である。初版は一九八〇年に出版された。協会はその後一九八七年、スワミ・ニキラーナンダ訳「The Gospel of Sri Ramakrishna」の全訳を出版したが、本書はまたそれなりの価値があるので、初版が売り切れたのを機会に、このたび改版第一刷を出すことにしたのである。

 原書の記録者マヘンドラナート・グプタ(筆名、M)みずからの英文による原書が一九〇七年に出版され、六回も版を重ねた後に一時姿を消し、数十年を経てふたたび世に出た経緯は、このあとにつづく「一九七八年版の序」に述べてある。

 初版発行の十年前、一八九七年に、二度にわたって本書の内容の一部が小冊子の形で発表されたとき、当時欧米から帰ったばかりのスワミ・ヴィヴェーカーナンダと、シュリ・ラーマクリシュナの霊的伴侶シュリ・サラダ・デヴィ(ホーリーマザー)とが著者にあてて送った手紙が原書の冒頭にのせてあるので、それらを次の頁にご紹介する。

一九九五年九月

日本ヴェーダーンタ協会


 私はとるにたらない人間だ。しかし海のほとりに住んでいて、水差に二、三杯の海の水を持っている。客がくるとその水でもてなす。彼の御言葉以外、私に何を話すことができよう。 M(マヘンドラーナト・グプタ著者)


目   次

はしがき

第一章 ドクシネシュワルにおけるシュリ・ラーマクリシュナ

第二章 パンディット・イシュワラ・チャンドラ・ヴィッダシャーゴル訪問

第三章 ドクシネシュワルの寺院で、ナレンドラ、ラカール、Mおよび他の弟子たちとともに

第四章 ブラフモ・サマージの指導者、ケシャブ・チャンドラ・センといっしょの汽船の旅

第五章 シュリ・ラーマクリシュナ、リリーコテージにケシャブ・チャンドラ・センをお訪ねになる

第六章 ドクシネシュワル寺院、シュリ・ラーマクリシュナのもとでのある一日

第七章 スレンドラの庭園訪問

第八章 パンディット・シャシャダル訪問

第九章 寺院でのシュリ・ラーマクリシュナ

第十章 シュリ・ラーマクリシュナ、ナレンドラおよびその他の弟子たちとともにドクシネシュワルの寺院で

第十一章 弟子バララームの家でのシュリ・ラーマクリシュナ、ナレンドラ、ギリシュ、バララーム、チュニラル、ラトゥ、M、ナーラーヤンその他の弟子たちとともに

第十二章 シヤンプクルにおけるシュリ・ラーマクリシュナ、弟子たち、およびイシャン、ドクターサルカルその他とともに

第十三章 シヤンプクルにおける師、弟子たちとともに

第十四章 コシポル・ガーデンにおけるシュリ・ラーマクリシュナ、ナレンドラ、ラカール、M、ギリシュその他の弟子たちとともに


はしがき

シュリ・ラーマクリシュナ ――彼の生涯の短いスケッチ――

   

 シュリ・ラーマクリシュナは一八三六年二月十八日水曜日『すなわちシャカ(注=インド暦の一つ)一七五七年、ファルグーン月の十日』白月(注=陰暦の月はじめの二週間)第二日、ベンガル州フーグリ地方のカマルプクルという村に生まれた。カマルプクルはアランバーグ地区の西約八マイル(十三キロ)、バルドワンの南約二十六マイル(四十二キロ)のところにある。生家は、貧しいが非常に尊敬されているブラーミンの家庭であった。

 シュリ・ラーマクリシュナの父クディラーム・チャタージーは深い信仰者であった。母チャンドラマニ・デヴィは、親切心の権化、しかも人を偽ることをまったく知らない人であった。一家は、かつてはカマルプクルから三マイル(五キロ)離れたデレという村に住んでいた。ところが土地の有力者、この村の地主が、法廷に出て自分に有利な証言をしてくれ、とクディラームに頼んだ。彼は教養あるブラーミンとしての不屈の精神をもってこれをことわった。この男が、彼が住みにくくなるようなことをしたので、彼は家族をつれてデレを去り、カマルプクルに落ちついたのである。

 シュリ・ラーマクリシュナは子供のときにはガダーダルと呼ばれた。彼は村の小学校で若干の読み書き算数の授業をうけた。彼がよくお話しになったことであるが、あの有名な数学者スバンカルが書いた、ベンガル地方で広く読まれている算数の書物も、彼の頭脳は混乱におとしいれることしかできなかったそうである。

 村の小学校を出ると、少年は家で遊んでいることは許されなかった。彼の次の務めは、家の祭神ログヴィルの日々の祭祀をおこなうことだった。毎日、彼は主の御名をとなえ、祭服をまとって花を集めた。身を浄めて日々の祈り(ガーヤトリ)をおこない、最高実在すなわち唯一不可分の神を瞑想した後にログヴィルを礼拝した。ログヴィルはラーマとも呼ばれ、最高実在の化身の一人、有名な叙事詩ラーマーヤナの主人公である。彼は実に見事にうたうことができた。芝居(ヤットラー)の中で一度きいた歌は、始めから終わりまでくり返すことができた。少年のときから、常に機嫌が良かった。男、女、子供たち、誰も彼もが彼を愛した。

 カマルプクルの隣人ラーハー家の提供する宿泊所に、修行者たちが常にやってきた。当時ガダーダルと呼ばれていたシュリ・ラーマクリシュナは、常にこれらの修行者たちの仲間に入り、弟子のように、献身的に彼らに奉仕するのだった。

 ヒンドゥの習慣として、ブラーミンの学者たちがよく聖典の中からさまざまの神の化身たちの生涯や教えをのべた箇所を朗読し、土地の言葉でこれらのできごとをうたったり語ったりした。シュリ・ラーマクリシュナは夢中になってそれらに聴き入った。

 このようにして彼は、ラーマーヤナ、マハーバーラタ、およびバーガヴァタムをマスターした――これらはヒンドゥ民族が神の化身たちと崇めるラーマとクリシュナの物語をふくむ、叙事詩である。................


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