ラーマクリシュナの例え話

目次へ

毒ヘビと聖者

 牧場で少年たちが牝牛の番をしていた。同じ野原に恐ろしい毒ヘビが住んでいた。ある日、一人の聖者が通りかかった。少年たちは彼のところにかけてゆき、『お出家さま、どうぞそちらには行かないでください。毒ヘビがおります』と言った。聖者は、『私の子供たち、どうもありがとう。しかし、私はヘビはこわくないのだよ。私は、自分をあらゆる災害から護るマントラ(聖語)を知っている』と言った。そしてそのまま行ってしまった。少年たちはついて行かなかった。――こわかったのである。聖者を見ると、ヘビはすばやくやってきてかま首をあげた。彼はあるマントラをとなえた。すると、ヘビは力がぬけてミミズのように彼の足下にうずくまった。

 聖者は言った、『これ、お前はなぜそう人に害をあたえて歩くのだ。お前に(神の)聖なる御名をさずけよう』これを始終となえていれば神を愛するようになる。ついには神を見るであろう。そうすれば人に悪いことをしたいという気持はなくなるだろう。ヘビは、聖なる御名を耳もとでささやいてもらった。ヘビは師の前に頭をさげて言った、『おお主よ、救われるためにはこの他に何をしなければなりませんでしょうか』と。聖なる御名をとなえよ。人に害をあたえるな。『私はまたやってきて、お前がどのように暮らしているかを見よう』師はこう言って去った。

 いく日かたった。牛飼いの少年たちはヘビがもうかまないことに気がついた。彼らはヘビに石を投げつけたが、それはまるでミミズのようにおとなしく、おこらなかった。少年の一人がそれの尻尾をつかんでふりまわし、いくたびも地面にたたきつけた。ヘビは血を吐き、気絶し、死ぬばかりになってすてられた。

 夜おそくなって、それは息をふき返した。静かに、ゆっくりと、身を引きずって穴に帰った。体はひどく傷つけられ、数日の間にがい骨のようにやせた。食物を探しに穴の外に出られるようになるまでにも多くの日数がかかった。少年たちがこわいので夜しか外に出なかった。聖者からイニシエイションを受けて以来、それは生きものいっさいを殺すことをやめ、できる限り、草の葉やその類のもので生きるように努めていた。

 聖者(マハトマー)は間もなくやってきた。彼はヘビを探したが見当たらない。少年たちは、ヘビは死んだ、と言った。しかし聖者はそれを信じることがてきなかった。ヘビがとなえていた主の御名は非常に強い霊力をもっているので、ヘビが問題を解決する前に、つまり神を見る前に死んだということはあり得ないのである。そこで彼は方々探し、それの名をくり返した。ヘビは穴からはい出て、師の前に頭をさげた。彼らはこのように話しあった――

 聖者『やあ、元気かね』

 ヘビ『おお主よ、ありがとうございます神のお慈悲によりまして、元気に暮らしております』

 聖者『ではその、骨と皮のようにやせたのはどういうわけだ。何ごとが起きたのだ』

 ヘビ『主よ、あなたのご命令にしたがい、私はどんな生きものをも傷つけないように努めております。私は、草の葉やその類のもので生命をつないでおります。前よりもやせたのはそのせいでございましょう』

 聖者『まあ、お前をこんな有様にしたのは食物だけではないと思うぞ! 何か他にもわけがあるに違いない。少し考えてごらん』

 ヘビ『ああ、わかりました! ある日牛飼いの少年たちが私を、たいそう手荒く扱いました。彼らは私の尾をつかんで何度も、地面に強くたたきつけました。可哀そうな連中で、私の内部にどれほどの変化が起ったか、彼らにはわからないのでございますよ! 私がもう誰もかみはしないし、少しも悪いことはしない、などということが彼らにわかるはずがございません』

 聖者『何というばかげたこと! 敵からそんなふうに扱われて自分をすくう方法を知らないとは、お前は大ばか者に違いない。私がお前に禁じたのは、神の被造物をかむということだったのだよ。なぜ、シューシュー言ってお前を殺そうとする連中をおどかさなかったのか』

 シュリ・ラーマクリシュナは、つづけてこうおっしゃった。「それだから、かま首をあげてシューシュー言うのだ。しかしかんではいけない。悪い人々、敵どもに向かってシューシュー言うことはさしつかえない。仕返しをする用意のあることを――悪に抵抗する方法を知っていることを、見せて追い払うのだ。ただ、自分の毒を相手の血の中に注ぎ込むことはしないよう、気をつけなければいけない。悪をもって悪に抵抗してはいけない。おこなってさしつかえないのは、自分を守るために抵抗のふりをすることだけだ」(抜粋ラーマクリシュナの福音より)

目次へ


| HOME | TOP |
(c) Nippon Vedanta Kyokai