日本ヴェーダーンタ協会の理想と活動

スワミ・ブテシャーナンダ

(ラーマクリシュナ・マートおよびラーマクリシュナ・ミッションのプレジデント)

  

第一回総会より

 私は、日本ヴェーダーンタ協会が、スワミ・ヴィヴェーカーナンダの師であるシュリ・ラーマクリシュナの名のもとに設立したラーマクリシュナ・ミッションのセンターとなって最初の総会に、こうして皆さんとともに出席することができたのを大変うれしく思います。ご存じのようにこの団体は、カルカッタの近郊ベルルにある本部統轄のもとに、ヨーロッパ各地、南北アメリカおよびシンガポールその他にセンターをおく国際的な組織です。

 スワミ・ヴィヴェーカーナンダは師から、人類の幸せのために彼の教えを世界中に広めるよう命ぜられました。それでインド全域および海外諸国をまわって各地の霊的実情を観察した結果、師の教えを伝える機関としてラーマクリシュナ僧団ならびに奉仕団を設立したのでした。

 発足にあたってスワミジーがかかげた僧団の理想は、「自己(純粋自己)の開放のために、そして人類の幸せのために」というものでした。人類が個別的にも、また集団としても人生の目標を見いだすことができるよう、この二つの理想は常に互いに手を携えて行くべきものであります。

 シュリ・ラーマクリシュナにしたがえば、霊性は人生のあらゆる面、あらゆる活動分野を覆う、包括的なものです。彼は宗教を、人生の営みのただ一部を覆うものとはせられませんでした。彼によると宗教的と世俗的の区別はありません。全生活が最高目標に向かって導かれるべきであり、その目標は、一ことで言えば神の悟り、最高理想の完全な自覚です。

 この組織の活動を純粋なものたらしめるため、スワミジーは最初にはっきりと、この団体は政治には一切関与しない、と宣言しました。それは人と人の間に、宗派と宗派の間に、国と国の間に全く差別をおきません。全人類を言わば一つの家族と見なしています。

 この組織は前述の二つの目標によって導かれていますから、地域の必要に応じて、教育、保健、霊的向上という、あらゆる分野で活動しています。ヨーロッパ、アメリカの各地および日本におけるセンターの活動は、人びとの霊性の開発を目的としています。私たちの霊的生活に十分な注意が払われるなら、同時に生活全般に注意が払われることになるでありましょう。霊性はまさに私たちの存在の本質なのですから。これに関連して、シュリ・ラーマクリシュナは、ある民族の思想と理想は、その民族が長い歴史を通じて歩み慣れた道を通って到達されるものである、ということを常に心にとめておけ、という、明確な指示を与えておられます。霊性の団体は、各自の方法に従って人の霊的厚生のために働いているすべての宗派に対し、気をつけて同情と尊敬にみちた、心の広い態度をとるべきです。道のちがいは表面的なものにすぎず、本質的には私たちは同一のもの、すなわち私たちみずからの神的な本性を探し求めているのです。シュリ・ラーマクリシュナによれば、私たちは、自分の理想を人におしつけることをせず、「友情」と「謙虚さ」と「存在は一つ ( Absolute idea of Unity ) 」という観念をもって、相手が彼自身の道を進むのを常にできる限り助けるよう努めるべきであります。私たちがこの道を歩むにあたって、シュリ・ラーマクリシュナが強調なさったのは、自分の理想をただ他者におしつけることによって宗派運動とするようなことはするな、さまざまの宗教とさまざまな文化はすべて、唯一の目標に達するためのさまざまの道である、ということでした。その唯一の目標は、すでに申し上げたように、私たち自身の霊的本質の完成であります。

 シュリ・ラーマクリシュナが強調なさり、スワミジーもそれをさまざまの形で表現したもう一つのアイディアは、活動はすべてささげものとして行え、というものでした。働きは礼拝です。もし私たちがこの理想を厳重に守り、スワミジーの指示に忠実に従うなら、自分がしていることは神にささげる礼拝の一つの形に他ならない、ということを記憶すべきであります。そうすればそこには、自分は偉いという思いや自分の考えを他者におしつけようという考えは起こる余地がありません。私たちは常に、自分は神の召使、したがって神の子供たちの召使でもある、ということを記憶すべきです。人びとへの奉仕は、さまざまの神像を拝んでいることなのです。

 インドでは、霊的成長のための活動だけではなく、物質的奉仕、すなわち教育、保健、文化等のための活動も必要なのですが、西洋諸国や日本のように進歩した国では、世俗的活動は必要ありません。ですから、ここでは活動は霊的福祉の増進に限られています。霊的理想を広めることは、洋の東西を問わず、人びとのために絶対に必要なことです。どこにいても私たちは、たがいに助けあい、相手を非難したり見くだしすることなく仲よく生活することができよう、霊的境地を高め、社会環境を改善しなければなりません。自分にできること何でもを通じて世の人の幸せに貢献しようとするこの運動に、多くの方々の参加を希望します。

 私たちが一つの団体を形成しているのは、ある目的をもって働く場合には組織を持つ方が便利だからです。そうでなければ、スワミジーは団体をつくることを好まれませんでした。彼は、「団体の規則はすべて逆の効果をもたらす、人びとを束縛し、人びとの量見をせまくする。それでも、最初には規則は必要なのだ」と言われました。ですから彼は、互いに助け合うことを理想とし、他を教えることを理想とせず、他を教える代わりに自分を教えるべきである、とするような、規則を定められたのでした。最高の理想の下では、私たちはすべて一つの存在なのです。

 私たちがこの理想のもとに働くことができて自他ともに恵まれるよう、シュリ・ラーマクリシュナの、ホーリーマザーの、スワミ・ヴィヴェーカーナンダの、そして過去現在および未来の世界のすべての霊的指導者たちの恩寵を祈って、この短い話を終えます。


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